津野米咲の稀代な作家性と、≠ME、PIGGS、群青の世界……期待の可能性 5選｜「偶像音楽 斯斯然然」第42回

■クロスノエシス
美しくもミステリアスな世界

前身グループのメロディックエレクトロニカの音楽性と無機的な世界観が好きだったこともあり、クロスノエシスが始動した時も、新メンバーが加入した際もチェックはしていた。だけど、ハマるところまでは至らず。しかしながら、ちょっと見ない間にすごいことになってる、というのはアイドルあるあるで。たまたま対バンにて、久しぶりのクロスノエシスだなぁ、と思ってライブを観てみれば、ドハマりしてしまったという話。

クロスノエシスRISA生誕ライブ 「水曜日のリサ」簡易生配信

RISAってこんないい声してたっけ!?　 AMEBAのオーラすごいな!?　 MAIの手の指先から足先まで美しいダンス……といった具合いに一気に魅了されてしまい、思わず予定最優先で続けざまにライブに足を運んだ。前グループの音楽性を踏襲しつつ、よりドラマティックな展開とドープなニューウェーヴ感たっぷりで、歌もパフォーマンスもより進化して深化している。美しくもミステリアスな世界観とメンバーや衣装のビジュアル面含めて、個人的に導き出したクロスノエシスの魅力とは、“『銀河鉄道999』の見知らぬ星で星野鉄郎が誘惑されてしまう松本零士の描く作画女性感“、というわかる人にしかわからないであろうたとえに行き着いた次第。

前グループから貫いていた、いわゆる“沸き曲”とは相反するsayshineの作り出す音楽は、このクロスノエシスにて成熟を迎えたといっていいのかもしれない。どこかekomsの潮流、サクライケンタ的な香りもする。前衛的なプロダクトを押し出しながらもマニアライクに行きすぎず、女性ボーカルの歌モノとしてのキャッチーな着地点はしっかりと押さえられている。

柴田淳の曲を未来化したような「薄明」（RISAが1人で歌ってみた） ベースラインが絶品である

現在の5人編成の音源、映像はまだ少ないのだが、リリースの予定もあるというし、今後しっかりチェックしていきたい。なにより、このご時世において、盛り上がることよりも完成度を高めて“魅せていく”グループの強さはますます増していくことだろう。

■NightOwl
勇敢で優美なトライアングル

こちらもしばらく観ない間にすごいことになってたぞグループ、NightOwl。初めて観たのはちょうど1年前の2019年11月に行なわれた＜MAWA LOOP TOKYO 2019＞だった。“我儘ラキアの妹分”ということだけで何の予備知識もなく観たものの、“ラウドロック系ではないんだな”という感想だけでそれほど印象に残らなかったのが正直なところ。まだ始動したばかりだし、などと思いつつ大阪拠点だということもあって、観る機会は久しくなかった。しかし、ここ最近になってTwitterのタイムラインにちょくちょく現れる銀髪のカッコいい女性がNightOwlの折原伊桜と知る。以前は黒髪だったので、ずいぶんと垢抜けたなと思うと同時に、“これは今観ておかなければ”と思い立った先日の＜アイドル甲子園＞。今回もあえて近況も音源も調べずに先入観なしで臨んだ。

あいにく雨の中での野外ステージだったが、いきなり胸ぐらを掴まれたように折原のフロントマンとしての器量とカリスマオーラにやられてしまった。こういうものは具体的に何がどうというわけでなく、当人が放っているもの自体なわけで。振りをしながらテントの柱を思わず掴んでしまったことであったり、楽しそうに笑顔を見せながらもオーディエンスの目を1人ずつしっかり見ている鋭い眼光であったりと、何気ない動きの1つひとつにただならぬ大物気質を感じてしまった。そして彼女の両翼を担う百城凛音、雨夜憧もエッジィな存在感と抜群のリズム感を持っており、3人が織りなすトライアングルがなんとも勇敢で優美だった。ダンサブルな楽曲、テンポ良いライブ運びも見事で、一挙一投足目が離せず“あれ？　まだ2曲くらいしかやってなくない？”と思うほどにあっという間の20分ステージであった。

Official Lyric Video | NightOwl - Feel Alive(Lyrics)

帰宅してから大急ぎで音源を調べ、カリスマオーラを増長していたノリの良いキラーチューンが「Feel Alive」だと知る。え？　作曲者のKOHDってアゲハスプリングスに入ったの!?

エレクトロニックサウンドとバンドサウンドの交錯していく様が心地よいアルバム『Dear, Night』。今回のライブを観てから初めて聴いたのだが、控えめに言って傑作。近年のトレンドの重低音を効かせたダンスミュージックとは相反する、サンプラー的な音使いを散りばめたプロダクト。緻密な楽曲制作と丁寧な音作りで、音数よりもメリハリあるサウンドを重視した耳慣れは、バンド好きにも訴求力の高いもの。クセのない真っ直ぐなボーカルも心地よい。

NightOwl - All Night Long | Official Music Video

小洒落たポップ性を放ってくる「Shining Ray」、オリエンタルな雰囲気の「All Night Long」、刹那Emo「Daybreak」、アバンギャルドで華僑な雰囲気を醸すエレクトロファンク「Be The One」、ストレートなロックチューン表題曲「Dear, Night」……などなど、斬新というわけではないのに目新しくてカラフルなポップスが詰まっている全9曲。改めて、控えめに言って大傑作。