＝LOVE、わーすた、CYNHN、NEO JAPONISM…… 2020年夏を盛り上げる攻めに攻めた曲8選｜「偶像音楽 斯斯然然」第37回

CYNHN「ごく平凡な青は、」　全然平凡じゃないやりたい放題なギターロック

前シングル「水生」がとんでもない怪物曲で度肝を抜かれたCYNHNだが、9月9日にリリースされる「ごく平凡な青は、」も全然平凡ではない、これまたとんでもない楽曲である。

CYNHN（スウィーニー）「ごく平凡な青は、」Music Video

メロディをとってみれば、良質なギターロックといったところだが、そのメロを活かすわけでもなく、かといって邪魔するわけでもなく、まるでそこに歌が存在していないかのように好き勝手に弾きまくるヒトリエの楽器陣が狂っている、いいぞもっとやれ。かの鬼才、アメリカ人ジャズギタリスト、マーク・リボーはギターが上達するコツとして“ヒップホップに合わせてまったく関係のないフレーズを弾く”というなんとも煙に巻くような発言をしていたが、そんなことを思い出した。

という奇天烈なバンドアレンジをバックによく歌えるな、というのが正直なところ。魅力的な声を持ったグループであることを改めて感じるとともに、澄んだ崎乃奏音のボーカルの歌い出しから、エモーショナルな綾瀬志希まで、というこの計算尽くした平歌における歌割りのすごさ。その順番もよく考えられている。次々と歌い継がれていくボーカルと、サビの重なりと、普通のアイドルグループの歌割り展開やアカペラを得意とするようなボーカルグループとも違う、CYNHN特有の間合いによる空気感をひたに感じられる楽曲である。

わーすた「べちょべちょパンケーキ?」　斜め上から攻めてくるぶっ飛び方

先述の「ごく平凡な青は、」でベンベンとクラビネットを弾き倒しているのは岸田勇気だが、近年の岸田ワークスとして代表的なものが、わーすたである。8月12日にリリースされた「サンデー！サンシャイン！」は、わーすたがスカをやるとこうなるのかと思った楽曲。わーすたは特有のグルーヴがあると思っていて、それは2年ほど前に「JUMPING SUMMER」や「Yo Quiero Vivir」といった、ハネたリズム曲をやり始めた時に感じたことでもある。日本人離れしたリズムを、バッチリ黒っぽくするわけでもなくきちんとアイドルポップスに落とし込んでくるバランス感覚の鋭さ。それは意識的にやってるところもあるだろうが、それよりも天性や勘の良さがそうさせているんだろうなと思わせるごく自然なもの。であるからこの「サンデー！サンシャイン！」においても、スカなんだけどスカっぽくならないという、個性でもある。

WASUTA（わーすた）「Sunday! Sunshine!」（サンデー！サンシャイン！）Music Video

で、今回“攻めてるな”と感じたのはカップリングの「べちょべちょパンケーキ? feat. そこの君。a.k.a. ヲタ」の方。安心と信頼の岸田勇気に対しての、想像の斜め上から攻めてくるさすがの鈴木まなか。坂元葉月、松田美里、小玉梨々華の3人による会話劇は一聴するとコミカルのようで、シュールでクールな謎の狂劇。これがなんとも聴けば聴くほどじわじわくるのだが、そこに突然やけに美麗なメロディが挟み込まれる。劇裏で鳴っているトラックもニューウェーヴを感じさせながら黒っぽかったりファンクっぽかったりと、よく聴かなければわからないようなやけに凝ったもので、インストも収録されているので必聴だ。総じて、なんだか往年の米米CLUB手法を感じさせるような怪曲である。この攻め方は実力があるからこそ許される手法であり、わーすただからこそ成立するものでもある。

昭和時代には、実力のある大人が全力でふざける音楽グループが数多くいた。アイドルも、成長してグッと大人の雰囲気を醸していくのもいいけど、大人になったからこそあえてコミカルに可愛くふざけるグループがいてもいいんじゃないかと思っているし、わーすたはそれがちゃんとできるグループである。近年はかつて蔑称でもあった“楽曲派”なんて言葉が独り歩きしているけれど、きちんと“かわいい”を振りかざしながら、スキルと実力を感じさせ、ぶっ飛んだことをやっても決してイロモノにならずに魅せられるのが、わーすたの強さだと思うのである。