満を持してのメジャー進出CY8ER、新たなフェーズに突入した神宿 ストリーミングによって短くなるアルバム事情|「偶像音楽 斯斯然然」第23回
冬将軍
音楽ものかき
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これは、ロック畑で育ってきた人間がロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である(隔週土曜日更新)。
音楽ストリーミング配信の普及により変化を見せているのが、アルバムという概念である。楽曲単位でダウンロード購入し、それをお気に入りのプレイリストで愉しむという音楽の聴き方は、サブスクリプションによって大きく変化している。いわゆる“音楽を購入して所有する”こと自体の価値が変わってきた昨今では、アルバム単位で聴かれることが増えている傾向にある。こうしたことは、作り手側にも大きな変化をもたらしている。アルバム収録時間だ。
・EMPiRE『the GREAT JOURNEY ALBUM』全11曲 約44分(ボーナストラック1曲含む)
・私立恵比寿中学『playlist』全10曲 約42分
・Maison book girl『海と宇宙の子供たち』全11曲 約42分
ここ最近リリースされたメジャーアイドルのアルバムを見ると10曲40分強という、短めの作品が増えているのだ(上記3枚とも2019年12月18日リリース)。
ストリーミングによるリスナーが音楽を聴く行為の敷居の変化。さらにはタイトルの選択肢が多い中でのインパクトは、たくさんの楽曲が収録されているというお得感よりも、厳選された楽曲での作品としての色で勝負するようになってきている点が興味深い。そして何度もくり返し聴きたくなるような長さである。
90年代にCDの普及により収録時間が増え、アルバムといえばいつの間にか14〜15曲曲、70分超えが普通とされてきた。しかしここに来て、46分テープに収まりそうなかつてのLPレコード時代のアルバムを彷彿とさせる作品作りの傾向になっているのは興味深い。しかしながら、このアルバム収録時間のコンパクト化は現時点ではまだアイドルのアルバムだけに多く見られる事案であることも面白いところだ。何かと流行に過敏なアイドルシーンならではの動き。しかしながら2020年は、ロックやポップスにおいても10曲40分程度のアルバムが主流となっていくことは間違いないだろう。
広がったバリエーションとグループの可能性
さて、そんなコンパクト化するアルバムの中で、先日リリースされたのがCY8ERの『東京』だ。まさに満を持してのメジャーデビュー作は全9曲34分。
楽曲、サウンド、そのハイクオリティなプロダクトに定評あるCY8ERがメジャーという後ろ盾を手に入れるとどうなるのか。そんな期待を裏切らない仕上がり。これまた“満を持して”、いや、“待ってました!”と叫びたくなる中田ヤスタカの楽曲提供。
CY8ER「恋愛リアリティー症 (feat.中田ヤスタカ) 」
「恋愛リアリティー」の良い意味での起伏の少ない平坦なメロディはどこをどう切ってもキャッチーさしか存在せず、ヤスタカ節を感じさせながら、どこか極東っぽい情緒はCY8ERに寄せた楽曲作りをしている印象を受ける。
CY8ER「東京ラットシティ」
かたや、安心と信頼のYunomiによる「東京ラットシティ」は十八番のお囃子リズムをより強調しながら格段にパワーアップしたサウンド構築が美しい。言葉の詰め込み方とリズムで攻める「トーキョー・イノベーター」やメルヘンチックにまどろむ「東京少女」など、これまでに見られないエレポップ具合いが心地よく、楽曲ごとに迎えられた制作陣がバリエーションとグループの可能性を引き出している。「サマー」(2019年4月)以降、各メンバーによる歌声のキャラクター性はより色濃くなり、ここまで面白いものになるとは正直思っていなかった。そういう意味で「トーキョーアイデンティティ」なんて、かつてのCY8ERじゃ生まれなかった曲だよなぁと思いつつ、今後がますます面白くなってきたと思わせてくれるメジャーデビュー作。
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