まねきケチャ[ライブレポート]5人の強き決意を刻んだLINE CUBE SHIBUYA公演
Pop'n'Roll 編集部
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まねきケチャが、2020年1月4日(土)にLINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)で新年を記念したワンマンライブ<LINE CUBE SHIBUYA de まねきケチャ>を開催した。本記事では、オフィシャルレポートをお届けする。
5人が2020年の幕開けに選んだ舞台は、“ロックの殿堂”渋谷公会堂。新年を迎えたばかりながらシアター型のホールには1,500人のオーディエンスが客席を埋めた。
定刻通りに会場が暗転すると、ホールに鳴り響くのはグループのオーバーチュア。すぐさま歓喜の声がホールにこだまする。この日のステージは門松や赤い布といった正月飾り。祝賀的なムードに包まれた渋谷公会堂だったが、5人が登場すると音楽は止み、突如静寂が訪れる。そこに第一声を響かせたのは、松下玲緒菜。「あたしの残りぜんぶあげる」をアカペラで歌い上げたのだ。
ライブアクトとしてのポリシーから口パクでのパフォーマンスを拒否し、年250本を超えるライブすべてに生の歌で向き合ってきたまねきケチャ。数回のメンバーチェンジなどさまざまな困難も、メロディを自身の声で歌い継ぐことで乗り越えてきたまねきケチャだったが、昨年12月、センターでありメインボーカルの松下が喉の不調からライブでの歌唱休止を告知。以後、松下はダンスのみでステージに立ち、彼女のパートをほかのメンバーがカバーすることでライブ活動を続けてきた。
松下のアカペラに導かれて、ドラムロールとストリングスが爆音で絡み合うイントロが会場に轟く。アイドル戦国時代と言われた10年代を経て、シーンを支えてきたアイドルグループが相次いで解散する今。2020年という新たな1年を迎えるにあたり、自分たちのライブは覚悟の場であることを松下が高らかな独唱で宣言すると、渋谷公会堂は異様な熱気に包まれた。
その空気を背負いながら5人が畳みかけるのはライブの定番であるアッパーチューン「冗談じゃないね」、「キミに届け」。ラウドなビートとともに会場を揺らすのは客席から自然発生的に沸き上がるミックスの渦。続く「SPLASH」もタオル回しでファンには馴染み深い1曲だが、この日は曲中で5人が客席に降りてオーディエンスと同じ目線でパフォーマンス。ライブとは演者の一人芝居ではなく、演者と観客が作り上げていく生ものであることを改めて自覚させながら客席のボルテージを上げていく。
メンバーの自己紹介を挟みながら、5人は王道のアイドルソング「漫画みたいに恋したい」、デビューシングルの両A面となる「告白のススメ」と「愛言葉」、そして疾走感あるロックチューンである「一刀両断」と曲調もさまざまな楽曲を連打。アイドルならではのバブルガムポップ的な楽しさを軸にしながら、復帰したセンター松下を中心にした5人のパフォーマンスは、今夜ここで歌い踊ることの一回性を客席と共有していく。
序盤を終えると、メンバーがそれぞれ書き初めを披露するコーナーへ。宮内は「笑」、中川は「平和(に呑む)」、深瀬は「大人」、篠原は「草のように」とそれぞれの抱負を披露していく中、松下が書き上げたのは「喉」の一文字。喉を壊して悔しかったこと、この日も朝は調子がよくなかったが特典会でファンと触れ合う中で喉の調子がよくなったこと。松下が明かすと、宮内も“玲緒菜の歌でまねきケチャが完成する”とカムバックに応えた。
ライブ中盤ではアニメ『おこしやす、ちとせちゃん』EDテーマ「いつかどこかへ」、『ゲゲゲの鬼太郎』EDテーマ「あるわけないのその奥に」とタイアップ曲を丁寧に披露していくが、ファンの間の人気曲「妄想桜」になると再びホールのボルテージはマックスに。胸の奥に突き刺さるハイトーンのメロディをメンバーが歌い上げると、再びMIXの嵐が会場を包む。続けざまに日本武道館での名演の記憶も色濃い「ありきたりな言葉で」をパフォーマンス。大サビでは満場のケチャが沸き起こり、正月の渋谷公会堂をエモ色のサイリウムで染めてみせた。
その勢いを加速させるように、深瀬の提案でどのメンバーのファンの声援が1番大きいかコール&レスポンスの声量対決を挟み、セットリストはまねきケチャサウンドの核であるロックチューンの連打に。「青息吐息」、「どうでもいいや」、そして昨年12月リリースのニューアルバム『あるわけないの』収録の「共通項」、「愛と狂気とカタルシス」。J-ROCKの系譜を汲むロックサウンドと美メロ、そしてストレートな生歌を掛け合わせたエモ色の強い楽曲を畳みかけていく。
ライブ終盤に差し掛かったMCで、5人は3月29日(日)に深瀬の生誕祭を有楽町ヒューリックホールで開催することを告知した後、続けざまに8月10日にグループ5周年のライブをパシフィコ横浜で開催することを発表。5人の新たな挑戦に満場の拍手が起こる中、まねきケチャは観客を座らせたままでバラード「相思い」を披露。続く新アルバム収録の「君のいない世界に」では、壮大にして幻想的なアンビエント調のビートのトラックに乗せて、恋することの切なさと喜びを5人は歌い上げ、アップビートだけでないグループの真骨頂を覗かせて見せた。
そして本編ラストに披露されたのは代表曲である「きみわずらい」。5人は歌とダンス、そして1,500人のオーディエンスも拍手、MIX、そしてケチャ。演者と観客がそれぞれありったけの手段でまねきケチャの歴史が刻まれた楽曲を奏で上げ、5人はステージを後にした。
暗転したままの会場の中、本編でのミックスに匹敵するアンコールを受け、会場に鳴り響くのはジャンキーなまでのビートで人気の高い「モンスターとケチャ」。ここでもメンバーが1階席後方から現れるというサプライズの演出を行って、ハイボルテージのままにアンコールへ突入。
曲を終えると、後方からの登場は当日のリハーサル中に思いついたアイディアと宮内が明かし、パシフィコ横浜に向けてもアイディアを考えているので期待してほしいと想いを語る。そしてこの夜の最後にパフォーマンスされたのは「タイムマシン」。2018年の日本武道館での熱演、2019年には舞浜アンフィシアターでメンバーによるバンド形態での演奏。いくつものライブを超えて、メンバーとファンの間で育まれてきたエモ曲とともに2時間半を超すライブは幕を閉じた。
ライブとは演者の一歩通行ではなく、演者と観客が一体となって作り上げるもの。楽曲とは聴き手がそれに触れる中で想いを深めて完成されていくもの。言葉にすればありきたりなことを、生の歌を通して表現し続けてきたまねきケチャ。けれど、アイドルが歌を歌うという当たり前の行為も、時として当たり前のことではなくなってしまう。数々の名演が刻まれてきた渋谷公会堂。そこにいつも通りの歌で、等身大の足跡を残して、5人は次なるライブへと向かっていった。
撮影:高階裕幸
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