TEAM SHACHI、Appare! ロック×ポップスが織りなすオリジナリティ溢れたアッパーな新譜|「偶像音楽 斯斯然然」第96回

TEAM SHACHI、Appare! ロック×ポップスが織りなすオリジナリティ溢れたアッパーな新譜|「偶像音楽 斯斯然然」第96回

冬将軍

音楽ものかき

2022.12.03
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今回は、先月下旬にリリースされたTEAM SHACHIとAppare!の新作をピックアップ。ともに実力派クリエイターを迎え、ロックとポップスを巧みに融合させた2つの強力作の音楽的な魅力を、冬将軍が解き明かす。

『偶像音楽 斯斯然然』
これはロックバンドの制作&マネジメントを長年経験してきた人間が、ロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である(隔週土曜日更新)。

ロックとポップスを織り混ぜ独自のセンスで魅了していくことは、アイドルグループの音楽性としての常套手段の1つである。歌唱力の高いグループも珍しくない現在のアイドルシーンにおいて、そうした混ぜ具合いの自由度は高くなり、リスナーの想像の斜め上をいく場合も少なくはないのだが、楽曲のオリジナリティを求めるあまり、逆にグループとしての本質やアイデンティティを見失ってしまっているように感じることも少なくはない。

そんなロックとポップスの混ぜ具合いが絶妙であり、グループとしての確固たる本質を貫きながらオリジナリティで魅せつけていく、TEAM SHACHIとAppare!、それぞれの新譜を紹介する。川谷絵音(indigo la End、ゲスの極み乙女、ジェニーハイ……)、首藤義勝(KEYTALK)、玉屋2060%(Wienners)といった他アイドルにも多く書き下ろしているバンドマンによる提供楽曲の独自解釈。また、両グループの新譜ともに浅野尚志による、まったく異なるタイプの楽曲が収録されているので、それを聴き比べてみるのも面白いだろう。

TEAM SHACHI ぶっ飛んだ世界観が暴発する

リリースのたびに挑戦的な方向性に驚かされ、唸らせられるTEAM SHACHI。今回もまた先鋭的でドープなEPが到来。11月23日リリースのタイトルからして、ただならぬ雰囲気を漂わせる『舞いの頂点を極めし時、私達は如何なる困難をも打ち破る』である。

一聴してわかる川谷絵音節の「江戸女」。そもそも名古屋発の彼女たちの“江戸女”とは?と思ってみたものの、《江戸の女に生まれたかった》《江戸っ子と結婚したい》と“江戸に憧れる女”を歌っており、“そうきたか”と思わせるも想像の斜め上を行く世界観。川谷らしい和情緒と昭和歌謡テイストを漂わせながら、TEAM SHACHIらしいブラスアレンジが絡みつき、各メンバーのセリフを絡めた予想できない楽曲展開で斬新かつ不思議な聴き心地が耳を襲う、中毒性の高いもの。

TEAM SHACHI「江戸女」

MVも何度でも観たくなる作風に仕上がっている。グッと大人の色香を放つ妖艶な4人が織りなす、映画さながらのえも言われぬ映像美。シュールな内容ではあるのだが、画の美しさ、秀麗なメンバービジュアルも相俟って、否応なしに説得力のあるものに仕上がっている。既存ポップスのセオリーをなぞらない不条理プログレッシブな展開も相俟って、3分弱とは到底思えない濃厚なMVである。

TEAM SHACHI「舞頂破」

「舞頂破」はメタリックなギターが暴発するデジロックなハードコア味がありつつも、キャッチーさが散りばめられた隙のない曲。《南無阿弥陀仏》《舞頂破》、次々とくり出さる奥義というべきキラーフレーズの数々が聴く者を高揚させていく。最後の最後に解放されていくメロディとすべてを昇華させていくブラス民のフィナーレ具合いが秀逸。同曲を手掛けたのは、アゲハスプリングス気鋭の作曲家・永澤和真の楽曲と聞き納得するも、このジェットコースター急展開歌唱を悠々とこなしていく4人の力量に脱帽。永澤曲はもう1曲『トウカイ盤』に収録されている「東海コンプライアンス」は、言葉のイントネーションとリズムを自在に操りながらの東海地方ご当地ソング。いろいろな意味で狂っている(褒め言葉)奇天烈曲である。こんな曲、TEAM SHACHIにしか歌えない。

『カイトウ盤』に収録されている「解凍ガール」は安心と信頼の浅野尚志の楽曲。フワッとしたメロディをなぞる少女テイストたっぷりの3人の歌声が心地よい。ぶっ飛んだベクトルに行きがちの彼女たちにあるピュアな少女性を存分に堪能できる楽曲である。

そして、秋本帆華が作詞した「光」。10年活動してきたからこそ辿り着いた自信と、この先も止まらず突き進んでいこうとするこれから希望が眩しい曲。彼女の実直さが垣間見える真っ直ぐな気持ちと、歌詞としての言葉選びが絡み合った妙々たる作家性。《ええいままよ》を最後のキメフレーズに持ってくるところに、ただならぬ作家性を感じずにはいられない。

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