桜井玲香、主演ミュージカル<DOROTHY~オズの魔法使い~>東京公演で表現力豊かな好演を披露!
Pop'n'Roll 編集部
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桜井玲香が主演を務めるミュージカル<DOROTHY~オズの魔法使い~>が、8月27日(土)より開幕した。本記事では、オフィシャルレポートをお届けする。
文:田辺ユウキ
ミュージカル<DOROTHY~オズの魔法使い~>
今作は、ライマン・フランク・ボーム作『オズの魔法使い』を田尾下哲の作&演出、宮川彬良の書き下ろし音楽、そして舞台を古きアメリカから現代のとある国へと変え、ミュージカルとして新たな息吹を吹きこんだもの。
大学のオーケストラ部でコンサートマスターを務め、プロのヴァイオリニストとしても活躍するドロシーの成長を描いていく。学生最後の定期演奏会を前に、楽団員たちと意見がぶつかりあったことで、音楽を演奏する喜びを見失ったドロシー。そしてヴァイオリンを封印しようとした時、現実とはかけ離れた異世界、音楽の都“OZの王国”へ迷いこむ。彼女はそこで出会った、かかし、ブリキ、ライオンとともに“どんな願いでも叶えてくれる”と言われるOZのもとを目指すことに。
今作の見どころの1つは、原作の要素を現代的に読み替えて表現しているところだ。例えば、かかしは“脳みそ(知恵)”がないとされてきたが、同作では“かかしに足りないのは想像力”とアレンジが加えられている。知恵とは、知識をもとにして正しい道筋を判断し、適切に処理していく能力のことだ。しかし想像力は、正しいかどうかが問題ではなく、身につけた知識に羽をつけて、物事を多様かつ豊かにしていくものである。そういったアレンジは、ドロシー、ブリキ、ライオンのキャラクター像にも投影されており、時代とともに少しずつ変化していく価値観についてあらわしているように見えた。
同作の登場人物は、ドロシーを含めてみんな必ずどこか欠けているところがある。だがそれを決して否定的に捉えてはいけない。そんな自分と向き合うこと、そして時には欠点すらも愛すること。それが生きるうえで大事なことであり、人間的な成長に繋がるのだと感じさせる。
また決して強調的に描かれていないが、ドロシー、かかし、ブリキ、ライオンがどういう隊列で旅をするか話し合う場面も印象的だった。ここでドロシーが提案する隊列もまた、今を生きる私たちにとって重要な考え方となっている。さまざまなところで現代性が感じられるようになっており、より親和的に物語を楽しむことができるだろう。
ミュージカルシーンも秀逸で、特にドロシーがOZの王国へ到着した際、“オズオズしい”というキャッチーなワードを散りばめた楽曲で迎えられる場面は、そのにぎやかさに目が釘づけとなる。舞台のセットも、五線譜を円形にしたものなど、物語のテーマである“音楽”が立体的に表現されており、鑑賞者を圧倒する。
そしてなにより、役者たちの好演だ。ドロシーに扮したのは桜井玲香。音楽との向き合い方、そして仲間たちの心をどうやって掴めばいいのかわからないという苦悩。天才的な演奏家ではあるが、しかし能力の高さだけではいつかどこかで躓いてしまう。人生の教訓的なメッセージを、多彩な表情と伸びのある歌声で体現している。かかし役をダブルキャストで務める蒼井翔太と鈴木勝吾、ブリキ役の渡辺大輔、ライオン役をダブルキャストで担当した小野塚勇人(劇団EXILE)と栗山航らのユニークな演技にも注目だ。
自分はなんてことのない存在だと思っても、その個性が活かせる時はきっとある。大事なのは、居場所を見つけること。<DOROTHY~オズの魔法使い~>はそのことに気づかせてくれる作品である。