TEAM SHACHIにでんぱ組.inc、LADYBABYからリリバリまで…… 浅野尚志のロックでマルチすぎる英才っぷり|「偶像音楽 斯斯然然」第66回

TEAM SHACHIにでんぱ組.inc、LADYBABYからリリバリまで…… 浅野尚志のロックでマルチすぎる英才っぷり|「偶像音楽 斯斯然然」第66回

冬将軍

音楽ものかき

2021.09.25
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TEAM SHACHIが9月3日にリリースした『浅野EP』は、音楽プロデューサー・浅野尚志が作詞、作曲、編曲を担当した楽曲を再レコーディングした企画盤。今回は、同作をはじめ、浅野が手がけたでんぱ組.incや虹のコンキスタドール、LADYBABY、Lily of the valleyの楽曲を分析しながら、同氏のサウンドの特異性や作家性を紐解く。

『偶像音楽 斯斯然然』
これはロックバンドの制作&マネジメントを長年経験してきた人間が、ロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である(隔週土曜日更新)。

TEAM SHACHIが9月3日にリリースした『浅野EP』。改名前のチームしゃちほこ時代から多くの楽曲を手掛けてきた、浅野尚志の作品“浅野曲”の中から選ばれた3曲を“TEAM SHACHIバージョン”として、新たにリアレンジ&リレコーディングされたものだ。来年4月の10周年に向け、“チームしゃちほことTEAM SHACHIの融合”を掲げる彼女たちの意欲作である。

チームしゃちほことTEAM SHACHIの融合と成長

名古屋城路上デビュー曲である「恋人はスナイパー」は、初めから現体制を暗示していたかのごとく、ブラスアレンジが映える楽曲。鍵盤によるオルガン寄りのアーシーなブラスサウンドが、70’sライクな香りを漂わせながらキャッチーなメロと相俟って、どこか古き良きアニソン風情を醸していた。ニューバージョンでは、生演奏により細かいパッセージのブラスフレーズに一気に惹き込まれる。そうした派手でエッジの利いたブラス民の狂騒が高鳴り、ゴリッとキメてくるベースがぐいぐいと引っ張りながら、心地よいグルーヴィなバンドサウンドを作り出している。メンバーの歌唱面での成長ぶりは言うまでもないのだが、聴き比べてみれば秋本帆華のキャラ立ちしたよく通る少女声の成長、いや深化というべきか、改めて感服せざるを得ない。

人気曲「抱きしめてアンセム」は、オリエンタルな響きを持つシンセポップから、スカコアっぽい要素が散りばめられグッと重心の低くなったバンドアンサンブルが猛り狂うロックチューンへと変貌している。捲し立てていくラップパートを含め、ライブさながらの臨場感で迫るボーカルには貫禄すら漂っている。原曲イメージを損なわず、グレードアップを図っている本作であるが、ファン投票によって選ばれた「乙女受験戦争」の仕上がりが秀逸で、日本のアニメがハリウッドで映画化されたような格段にスケールアップした世界観が広がっている。

少し懐かしいような歌謡チックな出だしから、ドラマティックなBメロ、そこから突き抜けていくサビの広がり方の気持ちよさが尋常ではない。間奏の孤高感あるトランペットのいななきから一気に駆け上がるギターに誘われるDメロへの流れ、そして大サビへのブレイクからの盛大なフィナーレ、大団円感にゾクゾクする。まさに“チームしゃちほことTEAM SHACHIの融合”というべき、リアレンジだろう。

そして新曲の「番狂わせてGODDESS」。TEAM SHACHIになってからは“ラウドポップ”を標榜しているように、独自のスタイルを切り拓いていく楽曲が多く、特にここ数年は「Rocket Queen feat. MCU」(2019年)や「JIBUNGOTO」(2020年)といった、これまでなかったような音楽探求が際立っていた。しかしながら同曲は、普遍的で日本歌謡的なメロディが印象的で、どこかヒーロー戦隊的なアッパーさを感じたりと、チームしゃちほこ時代のテイストを踏襲したような曲調である。ストロングスタイルのボーカルが炸裂しているものの、先述の秋本然り、伸びやかでしなやかな咲良菜緒であったり、歌い上げのディーヴァスタイルでもなければ、シャウトしていくような野太いロックスタイルでもないのに、唯一無二の強さを感じる不思議なボーカルが聴きどころでもある。女性が持つ華やかさと賑やかさ、そして少女のような可憐さをも併せ持つ、TEAM SHACHIのボーカリゼーションを十二分に堪能できる楽曲だ。

そんな楽曲縛りのEPをリリースするほどに、TEAM SHACHIからの絶対的信頼を得ている浅野尚志だが、氏はTEAM SHACHIのみならず、アイドルからシンガーソングライターまで多くのアーティスト楽曲を手掛けていることで、知られている。

1989年生まれで東京大学卒という経歴を持ち、ギターのみならずドラムからベースまですべての楽器を1人で演奏するというとんでもないマルチプレイヤーでもある。そのクリエイターとしての作風はひたすらにキャッチーでポップなメロディを得意としているものの、アレンジメントにおいてはやはりロックテイスト溢れるタイトなバンドサウンドが特徴的だ。かと思えば、幼少からピアノとバイオリンを学んできたという、筋金入りの英才的音楽家。実際に氏の代表的なワークスとして知られるロックバンド、NICO Touches the Wallsでは、プロデュースのほか、キーボードとバイオリンでサポートメンバーとしてライブに参加するなど、マルチすぎるプレイヤーとしてもその才覚を発揮している。

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