藤川千愛[ライブレポート]世界に向けた有観客ワンマン!“歌にしかできないこと”を体現した2周年公演
Pop'n'Roll 編集部
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藤川千愛が11月23日、渋谷TSUTAYA O-EASTでデビュー2周年を記念したワンマンライブを開催した。3rdアルバム『HiKiKoMoRi』の発売を11月24日に控えた本公演で藤川千愛は新曲7曲を含む全17曲をパフォーマンス。ライブ開始から66分はYouTubeでも同時配信が行われ、国内外のファンがその模様を見届けた。到着したレポートをお届けする。
藤川千愛 2nd Anniversary ワンマン『HiKiKoMoRi』
ライブのオープニングチューンとなったのはニューアルバム収録の新曲「四畳半戦争」。日本的な曲名とは裏腹のフュージョン的なリフに乗せ、藤川千愛は“変わらないで欲しいなんて馬鹿にしてる”、“今のあたしを壊さなくちゃ”と変化への欲求を怒りにも似た言葉で歌い上げる。
続く2曲目、1stアルバムのタイトル曲となる「ライカ」をパフォーマンスする藤川とバンドだが、この夜はメロウなエレクトリックピアノを軸にアーバンファンク色を強めたアレンジでプレイ。アルバムを重ねるごとに強まる藤川のグルーヴ志向を反映したサウンドは、この二周年公演を回顧の場にしないという藤川のスタンスを強く感じさせるものだった。
そんな彼女の熱気あるグルーヴに導かれ、オーディエンスはこの夜も客席での発声は禁止されていたが、ハンドクラップや体を揺らして彼女のパフォーマンスにリプライ。ライブ冒頭2曲にして早くもステージとフロアは一体となっていく。
この夜最初のMCで“一昨年の11月、渋谷でのアコースティックライブでスタートして遂に2年を迎えました!”と藤川が口にすると、会場に響き渡ったのは大きな歓声と口笛。突然の出来事に驚くフロアだったが、これは藤川が事前にバンドメンバーと吹き込んだ歓声を自らサンプラーで鳴らすというサプライズ。
ユーモアを交えて感染対策下でライブに集ったオーディエンスを和ませると「2年間、嬉しいことも悔しいこともたくさんあったけど、あたしをいつも勇気づけてくれたのは音楽、そして応援してくれるみんな」と感謝を述べ、SNSで募集したリクエストに応えたセットリストへ。トレードマークのギブソン・レスポールを抱え、「愛はヘッドフォンから」「葛藤」とロックチューン2曲を畳みかけてフロアの熱気を高めていく。
人気曲の連打でボルテージの高まったオーディエンスに向け、藤川は3rdアルバム『HiKiKoMoRi』のオープニング曲である「私に似ていない彼女」を初披露。ノイジーなラジオボイスの語りによるAメロとマイナー調の煽情的なサビが交錯する、彼女にとって新境地となる楽曲だ。そこで歌われるのは“私に似ていない彼女とあなたが今夜何するかなんて”といった女性の怨念。語りとハイトーン、そしてファルセットと持てる歌声すべてを駆使したヴォーカルワークは今まさに失恋のさなかにいる女性そのもの、愛憎の入り混じった藤川の新たな歌唱表現がオーディエンスを圧巻した。
その後も“コロナ禍で失われてしまった自分への応援歌”と自ら語ったスウィートなR&Bソング「リフレイン」、さらに自身初のテレビドラマ主題歌となったバラード「ありのままで」とニューアルバム収録曲を連続してパフォーマンス。1曲終えるごとに丁寧に各曲を説明するMCにも藤川の新作への強い意気込みが漂った。
ライブ前半を終えて配信66分の終わりが近づく中、藤川は残された時間でアニメ主題歌となった3曲を歌い繋ぐ。“デビューから4曲のアニメのテーマソングを担当させていただき、その度に世界中で私を知ってくれる方が増えて、日本の誇るアニメの偉大さを感じています”と語り、「あたしが隣にいるうちに(『盾の勇者の成り上がり』第2クールED)」へ。リクエストランキングでも群を抜いた票数で1位となった同曲だが、この夜藤川は1分に及ぶDメロをまるごとアカペラにするという大胆でアレンジで披露。
さらに「悔しさは種(『デジモンアドベンチャー:』ED)」「バケモノと呼ばれて(『無能なナナ』ED)」とセットリストが重ねられると、YouTubeでは英語に加えて、台湾、韓国、ロシア、インド、インドネシアなどさまざまな国の言語のコメントがメッセージ欄を埋めた。
YouTube配信が終了を迎えると、藤川はトレードマークのアコースティックギター、ギブソン・ハミングバードを抱えて「勝手にひとりでドキドキすんなよ」「あさぎ」の2曲をパフォーマンス。会場に集まった観客とのパーソナルな空間となったTSUTAYA O-EASTにストレートな歌声を届けると、続く「hane」ではハミングバードをタオルに持ち替えてオーディエンスと共にタオル回し。観客が発声できない現状の中でも、ライブハウスならではのステージとフロアが一体となれる体験をメイクした。
本編ラスト、藤川は“コロナが広がって家でじっとしていた時、みんなの時計も同じように動いているはずなのに自分だけ置いて行かれるようで落ち込んだりしました。こんな時にこそ、歌にしかできないことがあるはずだって作った曲”と胸中を吐露して、新曲「誰も知らない」へ。歌詞やサウンドのどこかに憂鬱やアイロニーが見え隠れするのが藤川千愛の音楽だが、彼女の今の思いを乗せて初披露されたこの曲は直球のディスコソウル。聴く人を、そしておそらくは自身をも励ますストレートなメッセージソングをグルーヴィでスウィートなヴォーカルで歌い上げ、藤川は本編のステージを後にした。
満場のアンコールに応えてステージに戻った藤川は、アルバムをリリースするたびにボーナストラックとして「いつか共演したいと思うバンド」の曲をカバーしていることを語り、前々作収録のクリープハイプ「オレンジ」、前作収録のASIAN KUNG-FU GENERATION「遥か彼方」を立て続けにパフォーマンス。さらに極めつけとなったのは3rdアルバムのボーナストラックとして収録される銀杏BOYZ「援助交際」。峯田和伸へのオマージュ感じさせるヴォーカルを歌い上げる藤川の表情は満面の笑み。TSUTAYA O-EASTをロックンロールの原点であるダンスパーティのようなピュアなビートで包んで彼女は二周年のステージを後にした。
デビューから2年、数々の主題歌を担当してオーディエンスを増やしながら、その一方で変化への焦燥や自身の孤独を歌う藤川千愛。ライブ配信ではディーバ的なヴォーカルで世界のリスナーを圧倒しながら、一方では大好きな音楽をバンドと一緒になって少年のように歌い上げる藤川千愛。それらはもしかすると二律背反に思えるかもしれない。しかし、人は誰しも日々移り変わる状況の中で、日々移り変わる感情を抱えて生きている。その中で私たちは自分の何を信じるべきか。私たちが抱く感情のすべてが正解であるということを、藤川千愛は自身の歌で証明しようとしているのではないかという思いを抱く周年公演だった。